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提 言 advance

通販市場の拡大と

業態改革を迫られる流通・小売業

        リアル店舗とバーチャル店舗の融合の課題

                         DSS研究所  飯塚 隆司

今何が起きているのか

新業態として「感動」「喜び」「たのしさ」を演出した地域密着型新店舗として、重県津市にオープンしたフードホール「メルヴィ」[1]()マルヤス)というスーパーマーケットである。この店舗は食品スーパーマーケットとレストランの融合を実現したものである。()マルヤスは、食品スーパーマーケットの他にレストランも展開していたが、新たに業態開発を行ったものである。

その店の外観は、前面はガラス張りで開放感を出している。店舗内では鮮魚は丸魚を平台に陳列、魚の泳ぐ水槽も設置、精肉部門では北イタリアのサンダニエーレの生ハムをつるして海外製品も陳列、高級感を演出、店舗内では豆腐を製造販売、製造ラインが見学できるようになっているという。商品陳列は高級感を演出した品揃え、ピザも店舗内で焼き上げ、販売している。ドライフルーツは70種類を陳列しているというこだわりようである。併設されたレストランでは、焙煎機やドリップマシンを利用した本格的なコーヒーを提供、モーニングサービスも行っておりや喫茶店感覚で利用できるようにハンバーグからステーキ、うどんまでのメニューをそろえているという。「女子会」ができる様にデザートメニューもそろえ、顧客にターゲットを置いた戦略を導入しているようである。

見学したわけではないので、詳しくは確認していないが、地域密着型戦略で顧客の絞り込みを図ろうという、食品スーパーマーケットの新しい形を提案しているのではなかろうか?

同社の「一般事業主行動計画表」というのがあるが、女性従業員の正社員を30%以上にすることを掲げており、妊娠・出産・服飾のための相談窓口を設置、女性社員の働き方改革を掲げていることが注目される。[2]

大規模小売店舗では、フードコートやレストランをテナントとして誘致するケースは珍しくはないが、食品スーパーマーケットがレストランと融合し、店舗内も顧客が来店したときの楽しさを演出すると同時に「女子会」など顧客誘導型戦略を導入しているケースはこれからの新業態開発への試金石になるかもしれない。

  リアル店舗とバーチャル店舗の融合 

平成28年経済センサス-活動調査が発表されたことは、前回紹介したが、通信販売・訪問販売の調査が平成24年から導入され、新たな業種として集計されるようになった。その事業所数は平成28年には24,269事業所で年間販売額は72,6002,400万円となっている。これは業種別分類であるが、無店舗販売・訪問販売として集計しており、平成24図表1に様になる。

図表1  無店舗販売・訪問販売の推移   

事業所合計 法人事業所 個人事業所 従業員数(人) 年間販売額

(百万円)

平成24年 20,424 15,606 4,818 159,199 4,273,849
平成26年 25,554 19,321 6,233 201,351  4,909,360
平成28年 24,269 19,981 4,288 206,179 7,260,024

出典:総務省・経済センサス−活動調査・平成28年より(自動販売機を除く)


このデータには、訪問販売のデータが含まれているが、分類集計できているのは自動販売機のみで、このデータを除いて集計し直したものである。訪問販売は特に分類されていないため通販全体やネット販売などのデータは分からない。

ちなみに、訪問販売、自動販売機などを除いた業態別集計は経済産業省でまとめているが、現在発表されているのは平成26年までである。参考までにこのデータを見ると事業所数は22,348事業所で、従業員数は18366人、年間販売額は64,3432,600万円である。

経済センサスの集計では、事業所数としては平成26年と比較して、平成28年は減少しているが、これは個人事業所が減少したもので、法人事業所は増加しており、毎回調査年次では増加傾向をたどっている。従業員数も増加傾向をたどっており、年間販売高は7兆円を大幅に越えて確実に市場が拡大している。

小売業の総販売額は1451,0382,200万円に対して5%のシェアを占めることになる。ちなみに百貨店・総合スーパーマーケットのシェア8.7%に迫る勢いで、リアル店舗の売り上げ減少傾向に通販市場の成長が大きく影響していることをうかがわせている。

この様な市場環境に中で、小売業での業態改革が着実に浸透し始めている。TSUTAYAが「T-SITE」を開発して以来3年、書籍と物販・飲食の融合によりオープンな店舗空間創造したが、同時に継続的なイベントを開催、さらに、数100席のイス・ソファーなど休息空間を設けた新業態が注目された。こうしたフリー空間を活用した異業種との融合が新たな商業空間として開発される傾向が始まり、特にリアル店舗とバーチャル店舗の融合は、生活者指向で着実に進展している。

食品スーパーマーケットや総合スーパーマーケットにおいてはネットスーパーへの参入が始まっているが、まだ配送問題や商品戦略で模索を続けており、費用対効果も未知数である。

一方、専門店では、リアル店舗の中でバーチャル店舗が併存し、リアル・バーチャルの融合が進んでいる。生活者の購買行動もパソコンに制約されたバーチャル店舗との接点が、スマートフォンの普及によって急速に拡大・変化している。

小売業の売り上げ低迷の切り札として、リアル・バーチャル店舗の融合は言われているが、問題はリアル店舗がバーチャル店舗と融合すればよいというものではない。リアル店舗とバーチャル店舗をどのように有機的に結び付けていくかに課題がある。

通販のZOZOTOWN(スタートゥディ)は、スマートフォンを利用したファッション通販として急速に成長してきたが、その特徴は、「採寸用ボディスーツ」の無料配布という新たな戦略である。消費者はこのスーツを着用することにより自分の体系の採寸が電子データとしてバーチャル店舗に送信、ネット通販で生活者が「サイズが不安」というネックを克服したことである。ここには「コ・イノベーション」による価値共創という新たな挑戦がうかがえる。バーチャル店舗がリアル店舗に近づくというイノベーションを行ったことである。

このほかにも支払方法は「ツケ払い」という2か月後の支払いや日替わりクーポン、即日配達などのネットビジネスとしての新たな戦略で、ファッションのオーダー化を図るというマネジメントシステムを構築したことである。 

また、青山商事もリアル店舗とバーチャル店舗を融合させている。スーツなどのファッション製品においては自分で採寸した体型、号数、ウエスト、首回り、股下などのデータを「マイサイズ」として入力、適合商品を画面に表示してオーダーする通販システムも開発している。自分で寸法を測定できない場合でも過去に店舗で採寸したデータ顧客番号を入力することによって、店舗での採寸データを自動的に画像認識させ画面に反映させることができるという

この様にリアル・バーチャル店舗の融合は、O2Oやマルチチャネルとして着実に進展している。しかし、このようなシステムの導入は費用対効果の評価でまだ多くの課題を抱えているという。どこでも購入できるという利便性と即日配達という通販特有のマネジメントも、すでに配送システムで限界に直面しており、新たなシステム再構築も求められている。

オムニチャネルでは無印良品や資生堂などが成果を出しつつあると言われているが、

投資を上回るバーチャル店舗の収益を実現しなければ、社会システムとして定着できない。一方、リアル店舗の他にネットビジネス、例えばAMAZONや楽天市場、Yahoo! JAPAN(ヤフー)などネット通販市場に出店することもできるが、運営方法では今後の課題であろう。

ただ、ネット通販時代の到来ということだけで、リアル店舗が消滅するということはありえない。むしろリアル店舗こそ新たな生活者ニーズに応えることによってリアル・バーチャル店舗が補完しあう関係が強まるのではなかろうか。

リアル店舗の新たな課題と店舗戦略の再構築

確かにマーケットプレイスへの出店やオンラインショップの運営は生活者が自宅にいても外出先でも自由に買い物できるというメリットはある。しかし、「モノ消費」から「コト消費」の時代にスライドしてきた生活者が求めるものは、単純に商品を購入するということではなく、その商品に付随するサービスや顧客の価値観に訴えるビジネス戦略である。そのプロセスは「人」を介したリアル店舗の役割がになうことになる。

ネット通販による膨大なデータの活用は、今後の流通業界において重要な要因であることには変わりはない。生活者の価値観は多様であり、価値共創、感性に訴える購買動向に応えるにはリアル店舗での対応、すなわち顧客とのコミュニケーションの充実である。

リアル店舗で、地域密着型戦略や顧客のターゲットマーケティングを推進するには、コミュニケーションとコンシェルジュという提案型店舗マネジメントの推進が新たな役割として重要になってくる。リアル店舗でしか感じられない買い物の楽しさ、店舗を訪れてウィンドショッピングやカルチャー体験、顧客との価値共創などリアル店舗でしか体験できない「楽しさ」、「驚き」、「期待感」、「エンターテイメント性」がリアル店舗に課せられているともいえる。

モノを購入するだけでリアル店舗の役割が達成できる時代ではなくなった。「モノからサービスへ」とか「コト消費」などということが言われているが、単純に、「モノを購入しなくなった消費者」とひとくくりでいってしまうことは、今後の小売業の店舗経営の在り方を誤解することにもなりかねない。

リアル店舗にもポイントカードや電子マネー、クレジットカードなど多様な情報収集機能を持ったツールが稼働している。このツールから得られる情報は通販の膨大な情報とは異なり、地域密着型のマネジメント、ターゲットマーケティングを実践するための貴重な地域情報である。

ID-POSはこうした情報活用に大きな役割を持つと同時に、顧客識別マーケティングの実践に道を開くツールとして存在する。

カード情報は、顧客の購買行動、ライフスタイルなどを識別する重要な情報である。「個人情報」をうんぬんする傾向もあるが、自店舗内で収集し、顧客に了承を得て、顧客識別マーケティング、コ・イノベーション、すなわち顧客と企業との価値共創へと活用することが、多様化する顧客ニーズに応えるための必須の課題でもある。顧客との信頼関係を構築することと、顧客情報の限定活用が固定客化への道を切り開く。カード情報はこうした顧客とのコミュニケーションを通じて提案型マネジメントを実現するための有力なツールである。

価値共創のイメージは、「生活者の生活体験」や「感性・知覚価値」などを生活者と企業と共有することによって、個々の生活者に適合した商品の開発・サービスの提供が行える仕組みである。

この概念の基本となることは顧客と企業の信頼関係、情報の共有という条件が満たされなければならない。生活者は自分のライフスタイルに合った商品やサービスが提供されることによって、自己の情報提供が理解されることになる。

顧客識別マーケティングの構築は、顧客を知ることであり、ニーズの多様化した顧客の絞り込みによる新たなコンセプトショップ創生につながる。

より多くの顧客を集め、大量販売する時代はすでに終了した。勿論、ディスカウントショップや一般小売業がすべて消滅することを肯定しているわけではない。生活者は、商品や店舗の使い分けを行っており、こうした時代に、小売業が企業コンセプトに基づきそれぞれ棲み分けすことになるであろう。

コンセプトショップ化や異業態との融合、リアル・バーチャル店舗の融合など、経営戦略を選択し企業を再構築、顧客との価値共創への道をたどることは、今後の小売業の課題でもあるといえる。

近未来の小売店舗は、従来の店舗においてはモノ消費にターゲットを当てた店舗戦略であり、その店舗戦略は大量商品を陳列することにより、より多くの顧客を呼び込み、顧客の選択肢を多様化し、より良い商品を大量に販売することが基本であった。

しかし、近未来の小売店舗は、顧客との信頼関係を構築することが不可欠である。ID-POSはこうした顧客の多様化に応えるための情報収集とデータ分析が可能となる新しいツールであり、顧客識別マーケティングの構築が課題となる。

地域密着・顧客の絞り込みなど、顧客ニーズにマッチした商品を陳列、提案できることが求められる。店員は商品知識をもつだけではなく、顧客との接点を強化し、個々の顧客のニーズにマッチした相談・提案型セールスが求められる。 当然、顧客は最も店舗に貢献度の高いAランクの顧客に焦点を当て、Bランク・Cランクの顧客が店舗での楽しさ、感動、発見に共鳴しAランクの顧客につながる戦略の展開が求められることになる。

新規顧客の獲得も、店舗コンセプトにマッチした生活者がターゲットになる。このような顧客の絞り込みは、当然限られた店舗内でより多くの商品陳列から、顧客ニーズにマッチした品揃えと、ネットビジネスによる補完的マネジメント、異業種融合による関連商品のトータルコーディネイトやシステム提案など、その店舗戦略は大きく転換することになるであろう。

ここでは詳しくは触れないが、コンテキスト時代におけるウェアラブル端末の役割が大きくなる。ネットワークの活用と情報処理技術は、今後の小売業経営にとって重要なツールとして位置づけられる。

リアル・バーチャル店舗の融合は限られた店舗スペースの商品力を補うものであると同時に、生活者の購買行動の変化に対応するための有力な手段でもある。生活者の購買方法も、ネットで検索、現物を確認して購入する。または購入した商品を自宅に配送依頼したり、比較購買の多様化に対応することも可能である。

店舗内のモバイル端末は店舗内での購買傾向だけではなく、動線、関心度合い等顧客情報を収集し、顧客とのコミュニケーションなど店舗のコンシェルジュはこのような顧客ニーズに応えると同時に生活提案も行うことにより、顧客との信頼関係を構築することが可能となる。またハード面では買い物ついでに食事や喫茶・休憩、イベントの演出など多様な店舗戦略が顧客の共感を呼び、顧客の固定化を実現できる。


[1] ()マルヤス・三重県津市に展開するスーパーマーケットで13店舗ほど出店している。「メルヴィ・芸濃店が20184月のオープンした。「新日本スーパーマーケット協会発行「セルフサービス」7月号で紹介。

[2] ()マルヤス・ホームページ「一般事業主行動計画表」社員に周知徹底するため各店舗に掲示、「女性活躍推進法における行動計画」などを掲げている。



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